世界の自転車政策・計画

自転車政策の流れ

 年代政策の項目国別の傾向
11960年代自転車走行環境整備
(立派な専用道)
オランダなど
21990年初国家の重点介入・位置付け・目標設定1990オランダ・北欧・アメリカ
1996イギリス 、2002ドイツ、2007フランス
31990年半自転車通勤の奨励策オランダ、イギリスなど
42000年前半自転車通学の奨励策 自転車買い物奨励アメリカ、イギリス、オランダ
52005年以降健康と環境による奨励策各国共通

「自転車政策」といわれるものが、始まったのは比較的新しく、1960年代ぐらいのオランダといわれています。もちろん、いわゆるサイクリングというようなレジャーや観光のための自転車の活用策(サイクリングロードなど)はもっと古くからおこなわれていましたが、都市交通としての自転車の都市内ネットワークの整備などはこのころからです。オランダでは、平坦な地形を利用して、自転車利用を盛んにしようと、地方を中心に、自転車走行環境の整備が進められました。立派な自転車専用道や立体交差の自転車道などが設けられました。
しかし、国全体のものではなく、一部の地方での自動車との分離策として行われ、また、自転車走行空間の整備というハードの側面に重点があり、何の目的でこれを作るのかなど、自転車政策としての自転車の利用目的や利用目標などは明確ではなかったのです。また、地方を中心としており、公共団体での大きな落差も指摘されています。
1990年代になると、オランダでは、第1に、自転車を何のために利用するかという利用目的、第2に、国レベルでの位置づけを明確にして、推進することを国の自転車計画を策定して明確かつ施策の体系化が行われました。そして、オランダに次いで、北欧や米国、さらにオーストラリアなどでも自転車の位置づけを交通手段として明確化するとともに、国レベルの自転車計画が策定されました。
さらに、遅れて、1996年には、英国で国家自転車計画、2002年にはドイツが同じく、国家自転車計画が策定されるなど、国レベルでの自転車政策が推進されます。ここで特徴的な点は、自転車走行空間の整備を前面に出すのではなく、自転車通勤の推進などの利用目的を明確にして、これに必要な空間を整備したり、通勤のための税制等を設けるなど、目的とハードの施設、さらにソフト施策が総合的に実施されました。そして、病気予防や環境のために自転車利用を盛んにすることが言われだしたのは、2005年前後と比較的新しく、最近のことです。また、国が自転車政策を主体的に進めることにより、地方でも自転車利用を推進する環境都市がどんどんと台頭してきます。オランダやドイツのような先進国とさらにデンマークのコペンハーゲンやイギリスのロンドンなど、米国のポートランドなどで先進的な自転車計画の策定や施策の推進が行われています。
このように、各国では、国レベルで、計画を策定して、自転車の位置づけや目標値をしっかりしたうえで、自転車利用の目的を設定して、自転車政策を推進していることが多いのです。

自転車計画

国レベルでの自転車計画の策定状況は、次の表の通りです。 ドイツ及びフランスを除いては、1990年代から国が自転車利用を推進する計画を策定しています。

欧米各国の自転車計画の策定状況(策定年順)
オランダ1990年「自転車マスタープラン」制定。2000年自転車施策は国から、自治体でつくる自転車協議会に移行
オーストラリア1993年「国家自転車戦略」を制定、1999年(1999-2004)、2005年(2005-2010)、2010年(2011-2016) 改定
アメリカ1994年連邦政府「国家自転車・歩行者調査」、自転車政策推進のISTEA法(1992-97)、TEA21法(98-03)、SAFETEA法(04-09)、その後MAP21法案を連邦が制定。
イギリス1996年「国家自転車戦略」策定。2005年には体制を改定。
ドイツ2002年「国家自転車計画 2002-2012年 」、2012年「国家自転車計画2020」策定
ノルウェー2003年「国家自転車戦略2006年-2015年」策定。2013年の国家交通計画(2014-2023年)中で自転車戦略を策定
ニュージーランド2005年国の「歩行者自転車利用促進計画」を策定。
オーストリア2006年「自転車マスタープラン」策定2011年改訂(2011-2015年)
フランス2007年「国家自転車計画」策定 2014年交通行動実施計画(ソフトな交通手段~歩行者自転車)策定
フィンランド2012年「国家歩行者自転車戦略2020」を策定。
ポルトガル2012年「国家自転車計画2013-2020」を策定。
ハンガリー2013年「国家自転車構想2014-2020」を策定。
チェコ2013年「国家自転車戦略2013-2020」を策定。
スロバキア2013年「国家自転車・マウンテンバイク戦略」を策定。
デンマーク2014年「国家自転車戦略~自転車でデンマークを~」策定。1990年代に開
スウェーデン2014年「自転車安全利用戦略」策定。
(参考) 日本国レベル自転車計画自転車活用推進法 2018年自転車活用推進計画策定予定

出典 古倉「実践する自転車まちづくり」学芸出版社pp234-239、ヨーロッパサイクリスト連盟資料及びドイツ連邦政府資料等に基づき、古倉作成

オランダ 1990年「自転車マスタープラン」制定。2000年自転車施策は国から、自治体でつくる自転車協議会に移行
ドイツ 2002年「国家自転車利用計画」策定。2012年改訂し、2013-2025の計画を策定
米国 ISTEA法(1992-97)、TEA21法(98-03)、SAFETEA法(04-09)連邦法制定。
1994年連邦政府「国家自転車・歩行者調査」
英国 1996年「国家自転車戦略」策定。2005年には体制を改定。
フランス パリ市自転車計画の策定(2002~2010)  2007国レベル取組みを開始し、計画を策定。
デンマーク 1990年代に自転車安全戦略を制定。
ノルウェー 2003年の国家交通計画の中で国家自転車戦略を策定(2006年~2015年)
オーストラリア 1993年国家自転車戦略を制定(1999年(1999-2004)と2005年(2005-2010) 改定)
ニュージーランド 2005年国の歩行者自転車利用促進計画を策定。
(参考)日本 国レベルの自転車計画は未策定
〔出典〕古倉「成功する自転車まちづくり」(学芸出版社)2010 p191 すでに、国が策定した期間が終わったものもありますが、国が乗り出したことが重要です。自転車先進国のオランダやドイツでも、長らく地方公共団体に自転車政策を任せていたのですが、地方公共団体間での自転車施策に大きな落差があり、国全体ではなかなか進まなかつたため、国が自ら乗り出して、国レベルの計画を策定しました。ここが重要なポイントです。 地方では、自転車を進める意識が高いところと、以前としてクルマ社会を変えようとしないところがあります。国が推進することにより、国全体の健康や環境の推進をはかることができます。これは、総論で高齢化社会や地球環境時代を迎えて、抽象的な呼び掛けをするのではなく、具体にこれを進める手段の利用を盛んにすることが必要です。 国が主導して、一定の期間又は継続的に推進することで、地方の施策も進展し、自転車利用が地域の人々の間に根付くものです。 また、交通安全についても、国レベルで推進し、一人あたりの自転車の利用距離が延びている国、すなわち、自転車利用が盛んになっている国では、自転車事故死者の比率が飛躍的に下がってきます。ただし、日本は後にいうように、歩道中心の自転車利用が行われており、自転車利用が増えても、この状態が続く限り、自転車事故が高水準で続くでしょう。

 自転車事故死亡者数減少率
19802002200980-0280-07
日本136613059330.960.68
アメリカ9656656300.690.65
ドイツ13385834620.440.35
フランス7092231620.310.23
イギリス3161331040.420.33
オランダ4251691380.400.32

これらの国では、具体の目標値を設定しており、これが自転車施策を具体に進める根拠になっています。

国名目標の内容
オランダ2010年までに1986年に比較して
①自転車利用を30%、鉄道利用を15%増加 ②自転車交通事故死亡者を2010までに50%削減
ドイツ自転車交通の分担率を隣国のオランダ並みにする(1997年17%→2012までに27%)
アメリカ①自転車と歩行者の合計のトリップ数割合を倍増(7.9%から15.8%に)
②自転車と歩行者の交通事故死傷者数を10%削減
イギリス①1996年と比較して、2002年までに自転車トリップ数を倍増、さらに2012年までに倍増する。
②全交通事故死者及び重傷者の40%削減1994-98年平均対2010年
ノルウエー①全国の自転車分担率8%、自転車都市の分担率50% ②事故数を自動車以下にする。
デンマーク①3キロ以下の自動車トリップの1/3を自転車に。 ②自動車以外の交通安全の向上
オーストラリア自転車の利用率を2倍にする。
(参考)日本国レベルの目標値はない

〔出典〕各国の自転車計画等により、古倉作成 ここでのポイントは、自転車の分担率の目標と交通事故削減の目標をセットで定めている例が多いことです。 また、世界の自転車先進都市でも、これを受けて、自転車計画の策定が盛んです。

都市・地域目標値(分担率)
イギリスロンドン80%増(2010)200%増(2020)
ロンドンシティ自転車の通勤数3倍トリップ数2倍(2010)
チェシャー 自転車通勤割合10%(2011)
ノッティンガム自転車通勤割合10%、特定企業20%
デューラム自転車通勤・通学割合2倍(2007)
ドイツベルリン自転車交通分担率50%増15%に(2010)
デンマークコペンハーゲン自転車通勤割合40%に(2012)
アメリカニューヨーク州 自転車等通勤割合15%増8.5%(2015)
ニューヨーク市自転車通勤2倍(2007~2015)、3倍(2020)
サンフランシスコ自転車日常移動3倍全移動の10%(2010)
ポートランド自転車市街地分担率5%(2001)10%(2006)15%(2011)
オーストラリアクィーンズランド自転車移動50%増(2011)2倍(2021)
ニュージーランド クライストチャーチ 自転車通勤10%(2011)自転車通学24%(2014)

〔出典〕古倉「自転車利用促進のためのソフト施策」(ぎょうせい)

日本における自転車施策

世界の自転車の先進国や先進都市では、自転車計画等が策定され、自転車政策がすすめられているが、日本での自転車政策の推進状況は、まだまだこれからという観が強い状況です。
全国の自治体に対して行ったアンケート調査によると、自転車の放置対策等のための自転車駐車対策は多くの自治体で実施されていますが、自転車利用促進策などの自転車施策は、3分の1程度の自治体でしか行われていません。

自転車駐車対策実施(予定を含む)45781.5%
自転車駐車対策以外の一般の自転車施策18432.8%
自転車駐車対策以外の一般の自転車施策561100.0%

〔出典〕自転車駐車場整備センター「地方公共団体の自転車駐車政策の動向及びこれに対応した自転車駐車場整備のあり方に関する調査」に基づき、古倉作成 回収率561/1067=52.6%
また、その内容も、自転車の安全対策が多く、自転車利用を実質的に促進する内容を持ったものは、わずかです。
2012年に国土交通省道路局の調査でも、自転車ネットワーク計画を策定済みの自治体(表の①)は、わずか4.2%であり、計画策定の予定も含めても、27.0%にしかなりません。

計画策定への取組有22927.0%
 ①計画策定済み(一般に公表したもの)364.2%
②計画検討中または準備中738.6%
③今後、具体的に計画検討を進める予定12014.1%
④今後とも計画を検討することを考えていない(未回答含む)62073.0%
849100.0%

〔出典〕道路局環境安全課「自転車ネットワーク計画の策定状況に関する調査」平成24年8月30日を古倉整理
以上のように、我が国の自転車政策及び自転車計画を推進する余地は極めて高く、これから、自転車のメリットの理解の推進とこれを基にした自転車政策及び自転車計画に対する取組の啓発や支援が必要であると考えられます。

サブコンテンツ

このページの先頭へ