政策・計画のあり方
世界の自転車政策・計画のあり方
今もっとも進んでいると考えられる都市としては、ロンドン、コペンハーゲン及びポートランドがあげられます。これらのそれぞれの計画の項目は次の通りです。
ロンドン自転車革命の項目
ロンドンでは、「自転車はロンドンでの唯一の最も重要な移動手段である」とされ、クルマはもちろん公共交通よりも自転車を優先する考え方を取り、ここに「自転車革命」といわれる所以があります。
序・目標 (総論) | 2026年までに自転車利用を400%増加(目標値) |
①首都での唯一主要交通手段(位置付け)②各道路利用者の利用権尊重③死傷者数の削減(特に重量貨物車)④都市内に駐輪場増設⑤盗難対策⑥自転車を毎日の健康運動として推進⑦市のすべての行政施策に組込み⑧自転車施策への公民の最大限の投資促進⑨自転車施策の各種団体との協働⑩通勤レジャー等の新規ルート提供 | |
1.ロンドン自転車革命の必要性 (総論) | |
① | 自転車利用促進の理由=メリット(市民、生活、交通、地球環境、生活、地域等) |
② | 首都全体での自転車利用可能性=19,000世帯、42,000人自転車交通需要の調査。地区ごとの自転車へ転換可能性 |
2.ロンドン自転車革命の施策内容(各論) | |
① | 3つの主要事業コミュニティサイクル+弾丸自転車道(通勤用)+特別区事業(各区が実施する事業) |
② | 10の一般事業=走行環境・駐輪空間・空間情報提供・通勤・通学・訓練・交通安全・マナー・盗難 |
③ | 自転車利用促進のイベント、地区での事業支援等、各種イベント、地区の利用促進キャンペーン |
3.ロンドン自転車革命の実施方法(各論) | |
① | 協働する主体との連携=16団体(自転車協会、警察、貨物協会、議会、建築環境協会、健康団体、公園協会、環境団体等) |
② | 他の移動手段との連携=鉄道、路面電車、バス、地下鉄(結節点に駐輪場等) |
4.今後の自転車利用の目標値及び課題・方向性(目標と施策対象、目標達成の手段) |
〔出典〕「ロンドン自転車革命2010」(ロンドン市)に基づき、古倉整理
コペンハーゲン自転車政策の項目
2002年から2012年まで10年間の計画では、次のような項目が挙げられています。
徹底して自転車利用者のことを考えて推進する「世界一自転車利用者にやさしいまち」として打ち出しています。
コペンハーゲン自転車政策2002-2012 | ||||
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総論 | 自転車位置付け | 市の交通の中心的役割を担う | ||
自転車のメリット 自転車転換の条件 | 手軽、時間節約、生活環境の質的向上 | |||
安全性・迅速性・快適性・健康・都市の体感 | ||||
各論 | 自転車戦略2012の重点施策 | 5 | 駐輪場の整備 | |
1 | 自転車用車線と自転車レーンの整備 | 6 | 信号機のある交差点の改善 | |
2 | 自転車専用道の整備 | 7 | 自転車用車線の一層の良好な管理 | |
3 | 市の中心部の自転車利用環境の改善 | 8 | 自転車用車線の一層の良好な美化 | |
4 | 自転車と公共交通機関との連携 | 9 | キャンペーンと広報 |
コペンハーゲンは、現在次の自転車戦略を策定して、新しい自転車政策のあり方方向性を打ち出している。基本的なコンセプトは、「世界最高の自転車都市」であり、明確な位置づけ・優遇と自転車利用者のことを徹底して考えている点が特徴です。
コペンハーゲン自転車戦略2025目標値(最近策定) | |
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1 | コペンハーゲンにおいて、自転車通勤する人の割合を35%から50%に増加 |
2 | 自転車利用者の重傷や死亡の危険性を2005年の70%まで減少 |
3 | 安全性、迅速性、快適性の満足度+自転車文化の環境への影響 |
〔出典〕「コペンハーゲンの自転車政策2002-2012」及び「自転車戦略2025」2011を基に古倉整理(古倉「自転車先進国における自転車政策の新たな展開」サイカパーキング㈱)
ポートランド市(米国オレゴン州)
極めて新しい自転車利用のコンセプトが提示されており、参考に値する計画です。20分近隣住区など都市計画との整合性を図り、この近隣住区の移動を自転車を中心に考えることや他の政策との連携を唱えるなど、斬新的な政策が内容となっています。また、人口60万人の規模の都市では、あまりにも壮大な962マイル(1500km余)のネットワーク計画を持ち、2030年に向けて整備を進めています。延長では、都市レベルとしては世界第二位であると考えられます。
総論一 | 1.自転車の具体的なメリット |
2.自転車計画の改定手続き | |
3.自転車の課題項目 | |
総論二 | 1.広範な施策体系 |
2.自転車政策の位置付け | |
3.自転車走行空間の分類 | |
利用環境整備策 | 1.自転車空間ネットワークの拡大 |
2.自転車走行空間の基準 | |
2.自転車走行空間の基準 | |
4.自転車と他の交通手段との連携 | |
5.環境にやさしい交通手段のネットワーク | |
6.自転車走行空間の運営・管理 | |
7.中心市街地における自転車道 | |
促進策 | 1.自転車利用の奨励 |
2.安全教育と義務化 | |
3.自転車利用者のための案内標識・標示 | |
実施策 | 1.実行のための全体的取組 |
2.自転車道の整備の実施基準 | |
3.ネットワーク形成の実施戦略 | |
4.戦略実行シナリオ | |
5.評価と測定 |
〔出典〕古倉「ポートランドの自転車政策」(サイカパーキング㈱「自転車・バイク・パーキングプレイス駐車場」2012.6月号~2013.5連載中)
これらを対岸のものとしてみるのではなく、その内容について世界の自転車政策を冷静に見る必要があります。各国や各都市がかけ離れた特別のことをしているとは思えません。日本でもできるものがいっぱいあると考えます。一番に大切な点は、最初に自転車の具体的なメリットに基づく、自転車の位置づけをクルマとの関係で明確に出すことです。すなわち、クルマのマイナス面(もちろん自転車にはないプラス面も持っています)を自転車への転換がカバーし、積極的に活用することで、大量のかつ多様なメリットが得られるのです。この点さえはっきり出すことができれば、中距離(例えば、5㎞以下)でのまちの移動手段の主役として利用できる政策や計画を打ち出すことができるのです。これをしっかりとサポートするこができれば、あとは、そんなにむずかしいことではないと考えています。
自転車政策・計画のあり方
これらをみると、総論がしっかりしており、自転車がクルマよりも施策上優位な位置付けが与えられ、これに基づき各論が実施されていることです。世界の自転車計画に基づいて、これらに共通する重要な項目やポイントをまとめて、自転車計画の構成を上げるとすると、次のようなものが提案できます。
ポイントは二つです。一つは、総論を重視することです。ここで、自転車のメリットを具体的かつ明確に説明し、これに基づき、自転車をクルマに対して優遇するなどの位置付けを具体的に示すことです。決して、自転車の放置やルールマナー、事故などを冒頭に出さないことです。自転車利用を促進する計画で、自転車はこんなにマイナスがいっぱいあるということを述べ、また、そのメリットの説明の何倍ものページを割いて述べることは戦略としては間違っていると考えます。これは各論の課題として解決すべき施策をセットで提示すべきです。二つは、各論で、自転車を何に活用しようとするかの使用目的(通勤、通学、買物、観光など)を明確に出して、これに合わせて、各論の項目を取捨選択すべきです。全ての目的のためにハードソフト施策を駆使するような壮大な内容は、一見素晴らしいと思われるかもしれませんが、継続性や浸透性、施策の重点化にとって、マイナスです。たとえば、具体的に買物に絞り、この目的のために必要なソフト施策やハード施策を組み立てることが望ましいと考えられます。買物に絞れば、自転車による買物を奨励するための受け入れ側である商業事業者と協働で施策の展開を図れたり、中心市街地の活性化のための自転車施策の展開項目も明確に出せます。また、ハードの走行空間や駐輪空間も予算規模に合わせて、必要なものをネットワークで確保できます。決して欲張らないことと具体的な施策を打ち出すことです。
一つの目的がうまくいけば、次の戦略として、別の目的のための自転車施策を重点にして展開することです。
1総論 | 自転車活用の目的、位置づけ・目標 | ①目的 | 自転車の活用の目的(大前提) | |||
②メリット | 具体かつ多くの内容、自転車へ転換の大義名分 | |||||
③位置付け | 自転車優遇、自動車・公共交通との関係 | |||||
④目標設定 | 自転車の交通分担率、(走行空間延長等は手段) | |||||
2各論 | 用途別施策 | ①通勤 | ②買い物 | ③通学 | ④観光・回遊・レク | ⑤営業・業務等 |
空間別施策 | ①空間(下物インフラ) | 走行空間+駐輪空間 | ||||
②手段(上物) | 所有自転車+レンタサイクル (コミュニティサイクル) | |||||
課題別施策 | ①自転車の放置 | ③自転車ルールマナー | ||||
②自転車の安全性 | ④雨等の天候、勾配 等 |
〔出典〕古倉「成功する自転車まちづくり」に示した施策構成により整理。ロンドン自転車革命2010などもおおむね上の項目に当たるものを採用。
なお、課題の項目はついては、課題ごとに施策とセットで、その解決方策を提示することが必要です。総論の中に、これらを入れ込むと、自転車利用促進計画は推進上きわめて重いものとなります。
その他、自転車政策や計画のあり方は、重要なカギがいくつかあります。今までの豊富なしかも専門的に蓄積した知識経験に基づき、具体の事例に応じて、ノウハウやアイデアを提案し、提供することをわれわれの機構は目指しています。